織物
糸や織りのマエストロでらっしゃる夢訪庵さん。
その豊富な知識と経験のもと、ご自身がよいと思える蚕の糸や素材を草木や天然の染料で染め上げ、手織りで拵える素敵な作品の数々にはいつも魅了されるのです。
私共の今回のオーダーは、
反物の表記自体は無地紬カテゴリーに入りつつも、数多の縞や格子が覗く複雑さを楽しんでいただける余呉紬。
今回も素敵なフェルナンブーコの余呉紬を届けてくださいました。
反物全体を表現するとすれば紅紫〔こうし〕色でしょうか。
浅紫色と濃紫色の間位の紫加減で紅色も感じつつ青みもございますね。
その見え方の複雑さは、やはりフェルナンブーコの赤があるから、なのでしょう。
数多の色が覗く布面はとても複雑で繊細で綺麗なのです。
反物端の糸房をご覧いただくと、織りと染めの複雑さがわかります。
糸の太さは一定ではなく太細があり、それぞれ微妙な違いの紫系のお色で染めているのです。
フェルナンブーコ由来の赤濃淡、ラックの紫濃淡、茨の赤茶…
糸の太細や、
フェルナンブーコ含め様々な天然の染料からいただいた色が織り成すハーモニーから、
一言では表せない滋味深い織物が生まれます。
ある時は紅紫色の無地の紬のように
そして、藤紫色の細縞が幾筋も流れる着物のように…
お召しいただく季節によって、時間や光によっても布面の印象が変化する素敵さをどうぞお楽しみください。
糸味の良さと作り手の情熱を感じる温もりは極上の幸せ感を届けてくれることでしょう。
反巾は、1尺4分(約39.5cm)ございますので、御手の長い方や男性にもお勧めです。
光の加減によって、はっと華やかに現れる「赤」。
これがフェルナンブーコの赤の魅惑の美しさです。
フェルナンブーコについて
フェルナンブーコ(フェルナンブコ)とは「ブラジルボク」の別名、その名の通りブラジルの高木です。
材が硬く弦楽器の弓に最適な為、高級材として非常に珍重され管弦楽の世界では著名な材なのですが、今ではワシントン条約で絶滅危惧種として登録された、希少な木となっているそうです。
そのフェルナンブーコがどうして染料として着物に使われているのでしょう。
そこには出合いが繋いだ物語があったのです。
フェルナンブーコは弓材として重用される以前、同じく材から取れる赤色色素(ブラジリン)がブラジルの重要な主産品でした。
ブラジルボク(赤い木)が国名の由来にもなったほどです。
染料としても優れていることを知っているN響出身のビオラ奏者「三原征洋氏」が何とか活用出来ないかと、染織のマエストロ、夢訪庵さんに依頼したことからフェルナンブーコ染めの道が啓かれました。
弓メーカーでは、加工後に出る木くず、端材、折れた弓等を大切に保管していたのです。
本来なら廃棄処分されていてもおかしくないフェルナンブーコを保管していたメーカーさん。
染料として活かす道を考えた三原氏。
見事に染料として表舞台に引き上げ染織品へ創り上げた夢訪庵さん。
日本らしい、物を大切にする気持「モッタイナイ」精神が育んだ織物が、このフェルナンブーコです。
素敵な染織品は、拝見出来、身に纏えることだけでも嬉しく素晴らしいのですが、そのバックグラウンドを識れば、尚一層愛おしくなりますね。







